農業機械の最適設計に関する研究
籾の揺動選別現象の解明   
コンバイン内部では,こぎ胴で脱粒された穀粒と,同時に発生する藁屑などの夾雑物が選別部へと搬送される.選別部は揺動選別部と風選別部に大別され,揺動選別部では脱穀された穀粒や藁屑に揺動振動を与えて,形状や比重の異なる夾雑物を移送選別し,チャフシーブを介して次行程である風選別部に移送する.選別精度の低下は,穀粒損失や夾雑物混入の増加を招き,収量の低下はもちろん,その後の調製作業にも悪影響を与えます.
選別性能の向上には,過去の経験や蓄積した技術に基づく設計・試作と,様々な品種に対する実証実験の繰り返しを行うため,多くの時間と多額の開発費用が必要となります.そのため選別性能の向上と開発期間短縮,開発コスト削減には,選別状況を再現する穀粒と藁屑のモデリングと,それらを用いた選別システムのシミュレーションが有用です.
本研究では,自脱コンバインの揺動選別部を供試し,混合物総質量,籾・藁屑混合比,籾・藁屑の湿り状態,揺動駆動軸回転数,チャフシーブの開度の5 つの制御因子について,設定条件を変化させて,籾のチャフシーブ間での流下量を実験的に求め,それら制御因子の変化が選別性能に与える影響を明らかにしています.
また,供試機の揺動選別部の構造を3D モデルとして構築し,実験を行った制御因子に基づく条件において、籾と藁屑の3D-DEM(個別要素法) による選別シミュレーションを実施し,実機による実験結果と比較検討しています.

機械作業時の安全性・快適性向上に関する研究
トラクターの力学モデルと転倒安全性向上に関する研究   
我が国の農作業中の死亡事故件数は年間約300件発生しており、発生率では建設産業の2倍も高い状況です.農作業死亡事故のうち、機械作業中の死亡事故が全体の約7割を占め、最も高い死亡事故要因となっているのが農業機械の転倒・転落と報告されています.特に、トラクタによる事故は機械作業中の死亡事故の約6割を占め、その低減化が急務となっています.本研究では、農作業死亡事故要因として最も高い頻度で発生するトラクタの横転を防止するため、トラクタの力学モデルによる走行シミュレーションと実機やスケールモデルトラクタを用いた走行実験により、転倒防止に資する走行条件の予測と安定性要件について検討を行っています.

ステレオビジョンによる再構成路面情報に基づくトラクタの挙動予測に関する研究   
本研究では転倒安全性の向上を目的として、トラクタに設置したステレオビジョンカメラにより前方の走行路面の3次元再構築を試みております.さらに、再構成された突起物を踏む路面の起伏情報をトラクタの走行シミュレーションの入力として機体の挙動を解析し,実走行時の計測データとの比較・検証を行っています.

コンバインの収穫作業の高速・省エネ化・スマート化に関する研究
コンバイン収穫時の稲の運動解析   
 コンバインは,水田を走りながら,作物を切断し,稲穂から籾を分離し,わら屑を風で飛ばし,籾をタンクに運びます。1960年代には1000 m2を収穫するのに人力で140時間かかっていましたが,コンバインの登場により30分で収穫することが可能になりました.
 このコンバインがさらに高速・省エネで収穫できるように,収穫時に大きな負荷がかかり,消費エネルギの4割を占める脱穀部の研究を行っています.脱穀部では,稲を打穀することにより,稲穂から籾を分離します.高速・省エネ化のためには,より小さな力(負荷)で籾を分離し,こぎ胴の運動エネルギを,効率良く籾を分離するための仕事として伝える作用を研究しなければなりません.
 コンバイン内の打穀作用は高速で複雑であることから(右図上),実機による試験では詳細な検討は困難です.そこで,打穀作用を受ける稲の運動を物理・数学の理論を用いてモデル化し(右図下),シミュレーションすることにより(下図),高速・省エネ化を実現する打穀作用を検討しています.

収穫と同時に登熟歩合を計測する次世代スマートコンバインの開発   
 籾殻内の玄米の充実は,コメの収量・品質に影響を与える主要な要素です(右図).この玄米の充実は,登熟歩合(全籾数中の一定粒厚以上の玄米数)として,カントリーエレベータ等の施設でサンプルを抽出して評価されます.近年,登熟歩合は気候の不安定,地力の低下,管理方法の違い等により,年次,生産者,ほ場間でばらつきが大きくなってきております(右図下).収量・品質を高いレベルで安定化するためには,各水田で登熟歩合を評価して管理方法の改善に生かすことが求められます.
 一方,現在の登熟歩合の計測方法は手間がかかる上,一部のサンプル評価であるため,収穫した水田と登熟歩合の情報を結びつけることができません.そこで,コンバインのタンク内に堆積した籾の質量と体積からかさ密度を求め,登熟歩合を計測する方法を開発しています.質量については,タンク下に設置したロードセルにより計測できます.現在,容器に設置したスピーカが音を発した際に生じるヘルムホルツ共鳴現象を利用して,体積を計測する方法を研究しています.

植物フェノタイピングに関する研究
コンピュータビジョンを用いた植物形質情報の計測・抽出・可視化に関する研究   
 植物の栽培管理で重要な「生育状態の評価」は,これまで目視による観察や経験による試行錯誤的方法によって行われてきました.また,植物の成長は,気温,日射量,土壌水分などの環境因子の影響も強く受け多様に変化してしまうため,これまでの方法だけでは,これらの変化を高精度かつ詳細に捉えることはほぼ不可能な状態でした.
 最近では,ICTの発展によって映像関連技術の低価格化も進んでおり,可視画像だけでなく,分光画像や深度画像を比較的簡単に撮影できるようになってきました.
 本研究室では,これらの技術を用いて植物の成長やその環境応答性を定量計測するためのシステムの開発を試みています.さらに,得られた情報を用いて植物の生育指標の算出や,植物生育状態の非破壊評価手法の開発も行っています.

高速植物フェノタイピングシステムの開発に関する研究   
 植物の育種や栽培管理技術などの高度化には,植物の成長やその環境応答性に関する情報を定量的かつ高速に連続計測・評価する技術の開発が求められています.また,近年のICTの目覚ましい発展を背景にして,これらの情報をより高速にかつ高精度に計測するための高速植物フェノタイピング技術に関する研究が国内外で盛んに行われています.しかしながら,計測装置は高額なものが多く,広く簡単に利用できる技術という状況にはなっていません.
 本研究室では,廉価なIoTデバイスとオープンソースを組み合わせることにより,植物の形質情報を高精度かつ連続に計測可能なフェノタイピングプラットフォームの開発や,開発したプラットフォームにより計測された情報を高度に可視化するための技術開発を行っています.

スマート農業に関する研究
ICTを用いた環境計測・制御システムの開発に関する研究   
農業は天候や季節などの環境要因の影響を強く受けると同時に.作物栽培には一定期間を必要とすることから,潜在的に不安定性や非効率性を含む産業構造を有しています.このためICT
(情報通信技術)を導入して農業生産を高度化しようとする様々な研究・開発が行われています.例えば,圃場では環境モニタリング装置が複数稼働し,これらにより計測される気温,湿度,日射量等の環境情報を用いて,農作業の意思決定が行われるようになってきています.一方,施設園芸ではこれらの情報を活用して,施設内の環境制御装置を適切に運用する複合環境制御が実現されています.
本研究室では,廉価なICT機器やオープンソースを活用した環境計測・制御システムの開発に関する研究に取り組んでいます.

低コスト農業支援ロボットの開発とその妥当性の検証   
 我が国の農業現場では,農業就業者の高齢化や担い手の不足により,作業者の確保が年々厳しさを増しています.このため,農業生産現場で活用できる農業支援ロボットの開発・導入が急ピッチで進められています.本研究室では,植物生育の計測や圃場内の監視をはじめ,農業資材や収穫物の運搬,農薬散布等の農作業を支援する小型で低コストなロボットに注目し,その計測・制御理論・技術やロボット本体の設計・開発を行っています.さらに,開発したロボットは,本研究室が所有する園芸施設や実際の農家圃場において実証試験を行うことにより,性能評価だけでなく,機能拡張や多面的利用技術の開発を進めています.